処女崇拝の系譜

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  • アラン・コルバン
  • 山田登世子・小倉孝誠=訳
  • 四六変上製 224ページ
    ISBN-13: 9784865781779
    刊行日: 2018/06

古代から近代まで西洋史を貫くプラトニック・ラヴ幻想

現実的存在としての女性に対して、聖性を担わされてきた「夢の乙女」たち。
「娼婦」「男らしさ」の歴史を鮮やかに描いてきたコルバンが、神話や文学作品に象徴的に現れる「乙女」たちの姿をあとづけ、「乙女」たちに託された男性の幻想の系譜を炙り出す。



目次


 序

アルテミス/ディアーナ [ギリシア神話・ローマ神話]
 ――近づきがたく、誇り高く、厳粛な美女――

ダフネ [ギリシア神話]
 ――人、それとも植物?――

アリアドネ [ギリシア神話]
 「アリアーヌ、姉君よ、いかな愛の傷ゆえに、打ち捨てられし岸の辺で、みまかりしや」(ラシーヌ)

ナウシカ [ホメロス『オデュッセイア』]
 「白い腕の王女」(ホメロス)

イズー [ベルール『トリスタン物語』]
 「すきとおった顔に金髪のイズー」(ベルール)

ベアトリーチェ [ダンテ『新生』『神曲』]
 「我が欲望を鎮めてくれる美しき瞳の快さよ」(ダンテ)

ラウラ [ペトラルカ『カンツォニエーレ』]
 「まなざしが我が心をさいなむひと」(ペトラルカ)

ドゥルシネア [セルバンテス『ドン・キホーテ』]
 「私が息をするのは彼女によってであり、私が自分の存在と命を汲むのは彼女のうちなのだ」(ドン・キホーテ)

ジュリエット [シェイクスピア『ロメオとジュリエット』]
 「わがジュリエットの手の奇跡のような白さ」(ロメオ)

オフィーリア [シェイクスピア『ハムレット』]
 「欲望の危険から身を遠ざけているようしておくれ」(レアティーズ)

眠れる森の美女 [ペロー『眠れる森の美女』]
 「まばゆいまでの輝き」(シャルル・ペロー)

パミラ [リチャードソン『パミラ』]
 「泣くときほどあなたが美しいことはありません」(主人)

シャルロッテ [ゲーテ『若きウェルテルの悩み』]
 ――薔薇色のリボン結び――

ヴィルジニー、アタラ [ベルナルダン・ド・サン=ピエール『ポールとヴィルジニー』/シャトーブリアン『アタラ』]
 「私は光の粒子のようにどこまでも純粋で不変なのです」

シルフィード [シャトーブリアン『墓の彼方の回想』]
 「神秘と情熱のえもいわれぬ融合」(シャトーブリアン)

グラツィエッラ [ラマルチーヌ『グラツィエッラ』]
 「こころの甘美なやすらぎ」(ラマルチーヌ)

オーレリア [ネルヴァル『オーレリア』]
 「僕は、今の世の普通の女をラウラやベアトリーチェに仕立てあげたのだ」(ジェラール・ド・ネルヴァル)

イヴォンヌ・ド・ガレー [アラン=フルニエ『グラン・モーヌ』]
 「日傘の白さに出会った、ある午後の思い出」(アラン=フルニエ)

 むすび

 訳者解説 「夢の女」、男の幻想(小倉孝誠)
 参考文献

関連情報

■「夢の乙女」〔本書原題〕の消失は、西欧の想像力の歴史のなかで大きな断絶をなしている。もう数十年も前のことだが、文学史家のジャン・ボリが述べていた。19世紀の男たちは「天使的な嘆願」と「売春宿での武勲」とのあいだをゆれていた、と。
■性行動の放縦な側面にかかわる現象は、多くの歴史家たちによってくわしく研究されてきた。艶書とそれが身体におよぼす影響、誘惑のプロセス、処女喪失の平均年齢、ありとあらゆる形式の売春などである。
■これにたいして、性行動のもう一つの側面、すなわち「天使的な嘆願」にかかわることは忘れられてしまった。その理由は明白である。このような女性観は、現代に生きるわたしたちの想像力や衝動、さらには科学や実践にももはや合致していないからである。
■今日それをアイロニーもなく、罵倒もせずに語ることができるだろうか???? アナクロニズムに陥ることなく、それを再現することができるだろうか?
■私たちは、20世紀半ばの革命に先立つ時代の男性にとって夢の乙女であった娘たちを、19人選んでみた。神話に現れた乙女(4人)、ことに文学に現れた乙女たち(15人)である。私たちの目的は、時の流れのまにまに、強いインパクトをあたえた乙女たちの姿を選りだして、彼らの夢を養ったこの乙女たちについて、後続する世代の男たちが何を知りえたかを理解しようとすることである。
(本書「序」より)


【著者紹介】
●アラン・コルバン(Alain Corbin 1936- )
1936年フランス・オルヌ県生。カーン大学卒業後、歴史の教授資格取得(1959年)。リモージュのリセで教えた後、トゥールのフランソワ・ラブレー大学教授として現代史を担当(1972-1986)。1987年よりパリ第1大学(パンテオン=ソルボンヌ)教授として、モーリス・アギュロンの跡を継いで19世紀史の講座を担当。現在は同大学名誉教授。
“感性の歴史家”としてフランスのみならず西欧世界の中で知られており、近年は『身体の歴史』(全3巻、2005年、邦訳2010年)や『男らしさの歴史』(全3巻、2011年、邦訳2016-17年)の監修者も務め、多くの後続世代の歴史学者たちをまとめる存在としても活躍している。
著書に『娼婦』(1978年、邦訳1991年、新版2010年)『においの歴史』(1982年、邦訳1990年)『浜辺の誕生』(1988年、邦訳1992年)『音の風景』(1994年、邦訳1997年)『記録を残さなかった男の歴史』(1998年、邦訳1999年)『快楽の歴史』(2008年、邦訳2011年)など。監修した『身体の歴史』のうち『? 19世紀 フランス革命から第1次世界大戦まで』を、同じく『男らしさの歴史』のうち『? 男らしさの勝利 19世紀』を編集。(邦訳はいずれも藤原書店)

【訳者紹介】
●訳者紹介
山田登世子(やまだ・とよこ)
1946年生。愛知淑徳大学名誉教授。専門はフランス文学。
主な著書に、『メディア都市パリ』『モードの帝国』(ちくま学芸文庫)、『声の銀河系』(河出書房新社)、『リゾート世紀末』(筑摩書房)、『晶子とシャネル』(勁草書房)、『ブランドの条件』『贅沢の条件』(共に岩波書店)、『誰も知らない印象派』(左右社)、『「フランスかぶれ」の誕生』(藤原書店)など。また訳書に、バルザック『風俗のパトロジー』(新評論、後に『風俗研究』として藤原書店)『従妹ベット』上下巻(藤原書店)、モラン『シャネル――人生を語る』(中央公論新社)、『モーパッサン短編集』(ちくま文庫)、『ロラン・バルト モード論集』(ちくま学芸文庫)など。〈バルザック「人間喜劇」セレクション〉(全13巻・別巻2)の責任編集を務める。2016年死去。

●小倉孝誠(おぐら・こうせい)
1956年生。慶應義塾大学教授。専門は近代フランスの文学と文化史。
1987年、パリ第4大学文学博士。1988年、東京大学大学院博士課程中退。著書に『身体の文化史』『愛の情景』『写真家ナダール』(中央公論新社)、『犯罪者の自伝を読む』(平凡社)、『革命と反動の図像学』『ゾラと近代フランス』(白水社)、『恋するフランス文学』(慶應義塾大学出版会)など。また訳書に、コルバン『時間・欲望・恐怖』(共訳)『感性の歴史』(編訳)『音の風景』『風景と人間』『空と海』(以上藤原書店)、フローベール『紋切型辞典』(岩波文庫)など、監訳書に、コルバン他監修『身体の歴史』(全3巻、日本翻訳出版文化賞受賞)『男らしさの歴史』(全3巻、共に藤原書店)がある。

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