- 手塚洋輔 著
- 四六並製 320頁
ISBN-13: 9784865784923
刊行日: 2026/3
「ワクチンの強制か、勧奨か、それとも、放任か?」――
常に難問と賛否に直面してきた予防接種行政。その歴史を通じて、行政の「行動原理」と「責任」のあり方を問うた名著、待望の新版!
占領期に由来する強力な予防接種行政はなぜ「国民任せ」というほど弱体化したのか? 安易な行政理解に基づく「小さな政府」論、「行政改革」論は「行政の責任分担の縮小(=行政の萎縮)」をもたらしかねない。現代の官僚制の逆説を衝く、最重要の視角。
●保護者、医療・行政・メディア関係者必読!
目次
新版に寄せて
序章 不確実性下の行政活動
一 はじめに
二 分析視角――行政の過誤と責任
三 事例としての予防接種行政
四 予防接種に関係する組織・対象者
第1章 戦後予防接種制度の起点――不作為過誤回避指向の選択(1945-1950)
一 予防接種法成立の背景
二 予防接種法の制定と特徴
三 制度初期における作為過誤への対応
小括
第2章 予防接種行政の確立――自発的服従の確保(1950-1967)
一 接種対象選定における「政治」と「科学」――諮問機関の制度化と決定の「科学」化
二 ポリオワクチンをめぐる過誤回避の対立
三 強制集団接種の内実
四 自発的服従への方策
小括
第3章 予防接種をめぐる構造変化――作為過誤の顕在化と公的責任の拡大(1967-1976)
一 副作用問題の社会的発見
二 予防接種見直しの動き
三 救済措置の創設とその機能
四 過誤回避の拮抗
五 法改正までの長い道程
小括
第4章 強制・集団接種体制の融解――作為過誤の再定義と公的責任の縮小(1976-現在)
一 科学的言説の多元化と保護者同意接種の開始――インフルエンザ
二 同意接種による決定回避の構造――MMR副作用への対応
三 予防接種禍訴訟
四 1994年改正――規制から条件整備へ
五 政策転換後における予防接種行政の現状
小括
終章 まとめと展望
一 予防接種行政における過誤回避と責任分担
二 過誤回避のディレンマからみる行政の構造問題
あとがき(初版)
図表一覧/索引
関連情報
■「過誤回避のディレンマ」という行政の宿命
「予防接種を実施すれば、必ず一定の割合で副作用の被害が生じてしまうし、かといって実施しなければ防げる感染症に罹患する被害が発生する。公共政策として予防接種を行うということは、するべきでないのにした誤り(作為過誤=副作用)と、するべきなのにしなかった誤り(不作為過誤=感染症罹患)という二つの「過誤」の可能性を行政が引き受けることを意味する。しかも、これら二つは、あちらを立てればこちらが立たないという関係にあり、同時に回避することができない。ということは、この種の行政活動は、何をしても非難が噴出しかねない脆弱な構造の上に成り立っているのである。
1948(昭和23)年に制定された予防接種法は、その法定ワクチンの多さや罰則付き強制接種制度により世界でも最も厳しい法制度とも評価されていたが、現在では、「国民任せ」とまで言われるようになっている。こうした予防接種法の変化の裏で通底する、予防接種行政の特質を抽出することにより、無謬性が受け入れられていた時代と、過誤の存在を前提とした現代とにおいて、過誤回避のディレンマを緩和するために適用される行政手法が、決定的に異なることが浮かび上がることになる。しかもそれは、今日指摘される行政が抱えるいくつかの問題点の元凶ともなっているのである。 (本文より)
■過誤回避のディレンマ状況に直面した行政が、「分散化」戦略をとり、自らの責任領域を能力に応じて縮小させる傾向は、おそらく不可逆的な趨勢と思われる。そこに見られるのは、作為過誤と不作為過誤のどちらも回避するよう期待されると、行政が自らの役割を限定させて決定と責任を他に委譲しようとする、逆説的な関係である。
■今日の官僚像を「吏員型」と呼び、「社会から撤退することによって存立基盤をかろうじて維持しようとしているように見える」とする指摘もあるが、これもまた、(責任の)「分散化」が広く行われていることを物語っている。
■戦後、広範な法定ワクチンによる強制接種として出発した予防接種制度が、半世紀の後に、法定ワクチン数も限定され勧奨接種による「国民任せ」な制度へと変貌したのは、まさにこうした逆説的な構造の帰結なのである。そしてこの事実は、我々に、行政の過誤をどう受けとめるべきか、改めて問いかけている。 (本文より)
著者紹介
●手塚洋輔(てづか・ようすけ)
1977年東京都生まれ。2000年東北大学法学部卒業。2004年東北大学大学院法学研究科博士課程中途退学。2008年東京大学より博士(学術)取得。東京大学先端科学技術研究センター特任助教、京都女子大学現代社会学部准教授、大阪市立大学大学院法学研究科教授等を経て、現在、大阪公立大学大学院法学研究科教授。専攻は、行政学・公共政策論。
著作に、『はじめての行政学(新版)』(共著、有斐閣、2022年)、『証言 原子力規制委員会は何をめざしたか』(共編著、岩波書店、2026年)、『改訂版 公共政策』(共著、放送大学教育振興会、2026年)ほか。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです