存在を抱く

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  • 村田喜代子・木下晋 著
  • 四六上製 280頁・口絵4頁
    ISBN-13: 9784865783933
    刊行日: 2023/7

私は今、なぜここにいるのか?
軽やかで深い、作家と画家の本音トーク!

「『みんな、自分の好きな木に抱きついてきなさい』。しっかり抱きついて、『ちょっとあったかかった』なんて言う。『それは生きてるからよ』。そこから始まるんです。」 ―――― 村田喜代子
「介護は、ほとんど手探りで、相手の身体に触れることから始まる。身体に触れることによって、見過ごしていたものに気づく。」 ―――― 木下 晋


目次

一 “存在”ということ
“存在ということ”への執心/「色」を考える――私が感じているもの/夫婦ということ/性と、生と、死と/夫婦の「心の出し入れ」/病む人の苦しみ、介護する家族/二人とも「学歴はない」/土管の中で書いた六十枚/和文タイプライターに魅了され個人誌をつくる/手書きの手紙、夜中のメール/創作を続けるということ/天辺に行ったおばあさん/どのように、ここを乗り越えるか/若い人たちへ

二 “人間”とは
母との山中逃避行/理想の女性は、聖母なのか/建具職人だったおじいさん/「本を信用したら、つまらん」/次々に出会う“幻影の父”/八幡にあった“共同体”/“漢字を忘れた”夫との離婚騒動/差別の体験――わけもわからず土下座した/戦争と、人類の危機/農業から始まる自然破壊と戦争/古代日本の精神世界/「警報」の恐ろしさ、戦争という自然破壊/つながれない現代社会/絵を描くとは/本当の意味での“アーティスト”になる/「あなたの好きな木に抱きつきなさい」/いのちの叫び、“目”の恐ろしさ

三 未来へ
介護と制作/爆弾を抱えた夫と生きる/筆をおく瞬間を見きわめる/木下絵画は“私小説”/「姨捨て山」から考える生と死/病む妻を描く――体の奥にある命のエッセンス/変われない日本人――敗戦と占領、コロナ禍/人間の限界、文明のゆきづまり/それでも希望を未来へ

対談を終えて  村田喜代子
対談を終えて  木下 晋


関連情報

木下 僕にとっては、介護もまた生殖行為であると思う。つまり、病気や老いでむき出しになって行く相手と向き合いながら、己の心のうちを見つめる行為だし、僕と妻の場合は、描き、描かれるということで、二人で作品という子どもを創る生殖行為のようなものだと。
村田 ああ、なるほどね。何となくそれは、うん、わかる気がする。
木下 だから直接セックスによって人間が生まれてくる、自分の遺伝子を次の時代に伝える、という行為ではないですよ、もはや。でも、精神的な意味ではそういうことになってくるね。精神的なDNAを伝える、というか。
村田 そうですね。だけど、「心の出し入れ」というのはずっと続きますものね。
木下 それ、何なの? 「心の出し入れ」って。
村田 つまり、こっちが何かこう言ったら、向こうがこう返す。この前ちょっと文句言ったら、昨日ふくれていたとか。そういう心のやりとり、出し入れというのが、なかなかこっちの方がおもしろいです。やっていると、ある充実感がある。
木下 ああ、なるほど。いや、それはすごく解る。
(本書より)


著者紹介

●村田喜代子(むらた・きよこ)
1945年、福岡県北九州市八幡生れ。作家。1985年、自身のタイプ印刷による個人誌『発表』を創刊。1987年『鍋の中』で芥川賞、1990年『白い山』で女流文学賞、1992年『真夜中の自転車』で平林たい子賞、1998年『望潮』で川端康成賞、2014年『ゆうじょこう』で読売文学賞、2019年『飛族』で谷崎潤一郎賞をそれぞれ受賞。その他の作品に『花野』『蟹女』『龍秘御天歌』『八幡炎炎記』『屋根屋』『故郷のわが家』『耳の叔母』『人の樹』他。小説以外の作品に『偏愛ムラタ美術館』『偏愛ムラタ美術館 発掘篇』『偏愛ムラタ美術館 展開篇』他。

●木下 晋(きのした・すすむ) 1947年、富山市生れ。画家。東京大学工学部建築学科講師、武蔵野美術大学客員教授、金沢美術工芸大学大学院教授などを歴任。17歳の時、自由美術協会展に最年少で入選。81年渡米、荒川修作に出会う。帰国後、鉛筆による表現に取り組む。“最後の瞽女”小林ハル、谷崎潤一郎『痴人の愛』モデルの和嶋せい、元ハンセン病患者の詩人桜井哲夫、パーキンソン病の妻らをモデルに創作。画文集『祈りの心』(求龍堂)『生の深い淵から』(里文出版)、絵本『ハルばあちゃんの手』『はじめての旅』(福音館書店)『森のパンダ』(講談社)、自伝『いのちを刻む』(城島徹編著、藤原書店)他。

*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです

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