〔学芸総合誌・季刊〕環――歴史・環境・文明 vol.17 [特集]都市とは何か

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  • 菊大並製 408ページ
    ISBN-13: 9784894343863
    刊行日: 2004/04

新しい時代に向けてトータルな知の総合を企図する学芸総合誌

 昨今、東京では新しいビルや複合施設が次々と建設され、その「新しさ」が喧伝されている。しかし、政治的・経済的一極集中が限度を超えた結果、都市化が無秩序に拡大し、雑然とした町並みが延々と続く一方、中心部は空洞化して、そこを生活の場とする住民はほとんど残っていない。他方、地方都市に目を向けてみれば、「ミニ東京」化を追い求めた結果、個性を失って画一化し、経済的にも文化的にも活力を失っている。どちらをとってみても、都市の魅力の喪失が問題とされているのではないだろうか。
 しかし、そもそもわれわれにとって「都市」とは何か。明治以後に輸入された「都市」という語には、どこか借り物の響きがあり、生活の場と密着した語とは感じられない。「都市化」の波に洗われた跡を「都市」と呼んでいるだけで、先行する「都市」の具体的ビジョンが欠落している。そのため、東京は無計画に輸入された「都市」イメージで埋め尽くされ、それがさらに「地方都市」に模倣される、という空虚な連鎖が続いているのである。
 本来、日本でも「門前町」「城下町」「宿場町」「港町」など環境や立地を活かした機能とそれに伴う文化をもった、人々の集まる「場」が発達していたはずである。そういった町は、住民が主体的に自治を行うコミュニティであるが故に、その地域ならではの個性も生まれ、また政治・経済・交通などさまざまな公共的な機能も矛盾なく担っていけたのであろう。また、町が育っていけば、さらに人やモノが引き寄せられて華やかな賑わいを見せると同時に、それと表裏をなす猥雑さや快楽も生まれてこよう。それらのすべての要素が、その町の魅力の源泉だったにちがいない。
 いま、われわれにとっての「都市」とその魅力というものを考えるならば、まず抽象化された「都市」概念を解体し、ひとつひとつの具体的な町が、住民の自治と公共性にもとづいて、どのようにして自ら育っていくかというところから出発しなければならない。そうでなければ、「多様性」や「個性」といった謳い文句も、中身を伴うものにはならないのではないか。
 本特集では、われわれにとっての「都市」を再創造していくために、都市とは何かという根底的な問いから出発し、具体的な都市の諸相に密着しながら、都市のあるべき未来像を考えてみたい。



目次

●人間にとって都市とは何か?

都市とは何か
A・コルバン+陣内秀信(小倉孝誠=訳)


 東京のような超巨大化か、あるいは「ミニ東京」化か、都市の崩壊が二極分化して進むなか、都市はどうあるべきなのだろうか。近代の都市における人間の感性の変遷を描いてきた「感性の歴史家」アラン・コルバン氏と、日本と地中海圏をまたにかけて都市を支える根底の構造に注目してきた建築史家の陣内秀信氏が、人間にとって「都市」とは何かをあらゆる角度から語り合う。


「平和」の贈りもの
ヨーロッパ都市の起源としてのコンスピラチオ
I・イリイチ(桜井直文=訳・解題)


■都市と公共性――コミュニティとしての都市

日本の都市と景観
松原隆一郎

都市と土地所有権
五十嵐敬喜

都市と権力
 【二つの権力概念による実験的な都市分析】
藤田弘夫

都市とコミュニティ
西宮 紘

トランスマイグラントと都市
広田康生

オート・ストップのすすめ
 【商品としての人間輸送を変革するために】
I・イリイチ+J・ロベール


■日本の都市の歴史

くるわ・もうひとつの都市空間
田中優子

〈コラム〉弥生都市をめぐって
広瀬和雄

近代日本の「地域」形成についての一考察
 【兵庫県播磨地方を事例に】
籠谷直人

〈コラム〉創出された古都京都と町衆史観
小路田泰直

大正期における都市人口の変動
伊藤繁

地方中都市の役割と構造変化
下平尾勲


■都市の多様性

新・都市類型論序説
 【アジア諸都市のフィールドワークからの中間報告】
村松伸

都市のコスモロジー
 【ヨーロッパ、合衆国、日本】
オギュスタン・ベルク

都市史家から見たヨーロッパの都市
鵜川馨

都市と人口
 【ヴィクトリア朝英国都市の異端児ミドルズバラ】
安元稔

イスラームの都市
佐藤次高

近世東南アジアの港市
鈴木恒之

南アジアの都市環境
 【バングラデシュ・ダカの廃棄物処理問題を中心に】
三宅博之

〈フォト・エッセイ〉巡礼都市の誕生
 【チベット・ラサを中心に】
久田博幸

南アジアの都市環境
 【バングラデシュ・ダカの廃棄物処理問題を中心に】
三宅博之


■都市をいかに創るか

産業としての「環境」と「住居」づくりのまったく新しいコンセプト
 【手続きを踏んだ建築(Procedural Architecture)】
荒川修作

都市をいかにデザインするか
田村明

創造都市の世紀へ
佐々木雅幸

定義される都市、発見される都市
橋爪紳也

都市と経済  【空間のレギュラシオンとは何か】
井上泰夫

「都市再生」とミドル・クラス
小玉 徹

都市の廃棄物地獄が見えてくる時
末石冨太郎


【小特集】日本の都市は、今

海勢頭豊  那覇――あけもどろのまち
内田雄造  水俣――エコシティーをめざす都市
山田雅彦  熊本――都市建築の現状から思う
立花民雄  柳川――廃市からの脱却
中谷健太郎  湯布院――30年間にみえてきたものは
岩尾龍太郎  博多――ヴェネツィアに学ぶべきこと
松田輝夫  萩――近代日本の原点の町
小泉凡  松江――近世と古代が隣り合う町
大林宣彦  尾道――「海彦」と「山彦」が暮らす、智慧深い町。
大原謙一郎  倉敷――この町を造り進化させているもの
早川和男  神戸――「行政災害」の果てに
河内厚郎  大阪環状線――“裸の信仰が生きる地”
金時鐘  猪飼野――無くてもある町
高岡庸治  松阪――「うわべはさしもあらで」
出島二郎  金沢――只今普請中
山田一廣  横浜――欧米文化摂取の窓口
?橋美由紀  郡山――在郷町の発展
長谷川孝治  弘前――弘前劇場という他者
山口昌男  札幌――北海道に人材なし


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●新連載
 鶴見和子の言いたい放題
 その1 権力者に対する寛容は美徳か?

 国際的社会学者として、日本中、世界中を飛び回っていた鶴見和子さんが、脳出血で倒れ左半身麻痺となってから丸8年。まったく新しい生き方を余儀なくされるなかで、論文執筆という「重労働」を離れて、短歌を詠み、対談・対話を通じて思索を深めてきた鶴見さんが、今の世に対して、どうしても言っておきたいことがあると筆を執った。病と共に生きる立場からの渾身の現代社会論!
●新連載
 榊原英資が世界を読み解く
 第1回 ユーロ・円・ドル

 日本も世界も混沌の中に投げ出されている現在、我々の進路をいかに考えればよいのか? 現代経済の荒波をくぐり抜けてきた“ミスター円”こと榊原英資氏が、国際金融を通じて世界の今を読み解く、待望の新連載!
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追悼・白木博次――裁判の科学性を問うた真の医学者
【帝銀事件、スモン裁判、ワクチン禍訴訟、水俣病裁判】
小川達郎
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●来日記念セミナー
 1990年以降の世界経済を読む(上)
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●寄稿論文
 社会学の冒険と失楽
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《連載》

●河上肇の「詩」と「書」 3
 有るか無きかのかそけさに生く
一海知義+魚住和晃

●唐木順三という存在 6
 中世的世界の解釈学 【無用者の発見】
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●〈往復書簡〉吉増剛造―高銀 7
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