〔学芸総合誌・季刊〕環――歴史・環境・文明 vol.19 [特集]いま、「平和」を問う

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  • 菊大並製 288ページ
    ISBN-13: 9784894344198
    刊行日: 2004/10

新しい時代に向けてトータルな知の総合を企図する学芸総合誌

 戦後、われわれは平和な時代を過してきている、と言われる。この平和な時代を一日でも長く続けなければ、とも言われる。近年、自衛隊のイラク派遣や「平和憲法」改正(悪)等々、右方向へ日本国は進みつつある、とも言われる。これら一連の“平和”という言葉に何ら疑問を呈さずに、“平和”の根源的意味も考えずに、戦後過ごしてきたのではなかろうか。
 80年代初頭、アジア平和研究国際会議の招きで来日した、文明社会を批判する思想家イバン・イリイチ氏は「平和と開発を切り離す」という記念講演をした。その時のことを後日、氏は以下のように語る。
 「横浜でわたしは、歴史家として語りました。とりわけわたしがやろうとしたことは、普遍的な概念としての平和という概念を解体し、すべてのエトノス(民族)は、それ自身に固有の平和のもとに憩う権利をもつ、ということを強調することでした。平和とは、抽象的な状態ではなく、それぞれのケースにおいて特殊であるようなあるこわれやすいことがらなのだ、ということを明らかにすることは重要なことだとわたしには思われたのです。
 横浜でわたしは二重のことをもくろんでいました。すなわち、われわれがヨーロッパと呼んでいる小地域における平和という概念の意味だけでなく、そのような概念の歴史と歴史のなかでおこったその意味の転倒をわたしは調べようとしたのです。20世紀は、世界中の人びとがある種の感染症に苦しんだ時代です。その感染症の担い手となったのはヨーロッパの諸概念です。そして『平和』もまたそうした概念のひとつです。わたしは日本で、そうしたヨーロッパ的平和概念について話しました。すなわち、ヨーロッパでかつて『平和』ということばで理解されていたことがらのすばらしいユニークさについて。そして同時に、『開発』の副産物になりさがった平和というものは、いかに堕落したものであるか、ということについてです。つまり、経済成長とか、義務教育化とか、健康診断とか、世界的な危機管理といったものが、このヨーロッパの伝統のなかでかつて平和として理解されていたものをまさに排除してしまうのです。平和(pax)を、開発のプロジェクトの爪の間から取り戻すことによってのみ、千年のあいだ『平和』にしっかり属していたすばらしいユニークさが明るみにだされるのです。」(桜井直文訳「『平和』の贈りもの」より)
 今、われわれは二十余年前に、イリイチが提起した問題を真摯に受けとめなければいけない時がきているのではないかと思う。「パクス・エコノミカ」とは、すなわち日常を覆い尽くした戦争状態である。日本の戦後は、軍事条約である日米安保条約に依存した「平和」のなかで、「経済的繁栄」を謳歌してきた。これはまさに、軍事的「平和」――それすらも実体を欠くが――に安住し、民衆レベルでの「平和」をことごとく破壊してきた、典型と言えるのではないだろうか。
 本特集では、「平和」という概念を問い直し、現代社会における真の「平和」とは何かを根底から考え直してみたい、と思う。




目次

平和とは、生活のあり方

       ――平和と開発を切り離す

I・イリイチ(鈴木一策訳)


平和の実質を求めて――カント・イリイチ・江戸再考
岩尾龍太郎

戦争としての「平和」
鈴木一策

「やわら」の志――人と人とが対等であるわざ
竹内敏晴

カンボジアから「がん患者学」へ
柳原和子

「平和をつくるからだ」をつくる――きものと日本女性のからだ
三砂ちづる

お金という快楽、平和という快楽――パクス・エコノミカから平和を救い出す
辻信一

地方の自治と平和――豊島から見えるもの
石井亨

農に平和は訪れるか――薄氷の上の日本の食
岩澤信夫

正義と平和
伊勢?賢治

平和と戦争
川満信一

平和への断想
高銀

沼矛(ぬぼこ)の行方――母権論的断想
臼井隆一郎

国民総生産より国民総幸福を尊ぶ――ブータン王国史に見る伝統文化の維持
久田博幸



小特集・日露戦争は世界戦争か

〈鼎談〉日露戦争は世界戦争か?
崔文衡+粕谷一希+御厨貴


■崔文衡『日露戦争の世界史』を読む

「日露戦争の世界史」か「世界史としての日露戦争」か
大江志乃夫

「国民戦争」と「帝国主義戦争」の間
三輪公忠

オペラ『日露戦争』
速水融

今、日露戦争を振り返る意味
加藤陽子

ナポレオン戦争に遡って
土谷英夫

パワー・ポリティックスの展開――今日までつづく国際政治のパターン
木村汎

高成田享/中馬清福/天日隆彦/本野英一/山下範久?
《特別寄稿》

分離、それは初めである
Ph・ラクー=ラバルト(上田和彦訳)

歴史家から見たゾラ
A・コルバン(小倉孝誠訳)

同時代人がみたジョルジュ・サンド
ドストエフスキー/バクーニン/バルザック/ハイネほか

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《連載》

●新連載・反哲学的読書論1
 黙って兵隊であるものの文学
子安宣邦

●鶴見和子の言いたい放題 その3
 政治家の責任
鶴見和子

●榊原英資が世界を読み解く 第3回
 アジアの新中産階級
榊原英資

●河上肇の「詩」と「書」 5
 白雲生ずる処 水清く石痩せたり
一海知義+魚住和晃

●唐木順三という存在 8
 哲学と社会科学――思想が生まれるところ
粕谷一希


  巻頭短歌 鶴見和子  巻末俳句 石牟礼道子

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