- 菊大並製 400ページ
ISBN-13: 9784894347274
刊行日: 2010/1
新しい時代に向けてトータルな知の総合を企図する学芸総合誌
「農」は、我々の「生活」の根幹である。「農」こそ、我々の日々の「食」を支えているからである。全く自明のことだが、しかし我々は、経済至上主義が支配する日常生活のただ中で、このことを忘れてしまっているかのようである。そして、世界規模の気候変動や環境悪化がもたらす食糧危機、衰退著しい日本の農業と低下する食糧自給率、農薬や化学肥料の使用と食の安全性への不安……といったように、「農」は、いま、あらゆる次元で危機に瀕している。
だが「農」の危機は、単に「食」の危機を意味するだけではない。「農」は、それぞれの地域の「経済」と「社会」と「文化」の根幹でもある。「農」が破壊されれば、その地域における雇用から自然環境、伝統文化、共同生活に至るまで、すべてが破壊される。有機農業実践の長年にわたる地道な努力によって、農業それ自体だけでなく、地域全体を活性化させた山形県高畠町のような例は、そのことを逆から証明していよう。
貨幣経済の絶対視は、「途上国と先進国」「アジアと日本」「農村と都市」「生産者と消費者」「自然と人間」「伝統と現代人」「次世代と現代人」といった二項対立をつくりだす。「農」を問うことは、この二項対立を超えようとすることである。すなわち「隣人や他者や自然と共にどう生きるか」ということを「農」という問題は、我々に問いかけているのである。
目次
【特集】 いま、 「農」 を問う
土についての宣言
イバン・イリイチ (訳=編集部)
土の哲学を抜きにして、 徳も生存の新しいかたちもありえない。
〈座談会〉 「農」 という原点 ――「農」 から変える暮らしと社会
原剛+星寛治+大江正章+山下一仁 (司会=編集長)
◎「開発支援」 に生きる後藤新平の思想
【第3回 「後藤新平賞」 受賞講演】
緒方貞子
◎第21回アジア・太平洋賞 大賞受賞!
ワシーリー・モロジャコフ氏 『後藤新平と日露関係史』
評=渡辺利夫氏
◎政権交代と経済危機をどうみるか】
鼎 談 『デモクラシー以後』 をめぐって
『帝国以後』 の著者トッド氏が、 最新作刊行を記念した来日を機に、 日本を代表
する2人の論客と共に、 現状の “危機” の本質を鋭く抉る!
E・トッド 片山善博 御厨 貴(通訳=荻野文隆)
◎『身体の歴史』 (全3巻) 邦訳、 今春発刊
【インタビュー】 「身体の歴史」 とは何か
16世紀から現代までを一望する 『身体の歴史』 (全3巻) 邦訳刊行を前に、 監
修者の一人であるコルバンが本企画の意図を語る。
A・コルバン (小倉孝誠 訳)
◎パムクの世界的評価を高めた 『白い城』、 待望の邦訳刊行
東洋でも西洋でもなく【オルハン・パムクの世界の多元性】
「東」 と 「西」 とをいたずらに対立させることなく、 物と場所とに徹底してこだわり続け
ることから生まれる、パムク文学の手触り。
J-F・ショーブ 宮下志朗訳
◎ 女性初の歌舞伎作者であり、 「女人芸術」 主宰者の本格的作品集刊行
長谷川時雨と同時代人 【与謝野晶子、 神崎 清、 谷崎精二、 秋田雨雀、 ……】
尾形明子
◎ 第6回 「ゆいまーる・琉球の自治」 (於・平安座島) 報告
松島泰勝 琉球・平安座島から自治を考える
川満信一 平安座島遊び 【琉球詩人の島寿ぎ】
● 第5回 河上肇賞 受賞作決定
(本賞) 鈴木順子氏
(奨励賞) 佐藤信氏 / 貝瀬千里氏
● 寄 稿
● 連 載
● 〈書物の時空〉
■ 名著探訪
■ 書 評
読者の声 / 執筆者紹介
次号予告