〔社会思想史学会年報〕社会思想史研究 No.38 [特集]社会思想としての科学

価格: ¥3,080 (税込)
[ポイント還元 123ポイント~]
数量:
在庫: 在庫あり

返品についての詳細はこちら

twitter

  • A5並製 312ページ
    ISBN-13: 9784894349919
    刊行日: 2014/09

 二〇一一年三月の福島第一原子力発電所事故とそれに続く一連の出来事は、わが国の原子力エネルギー政策が市民社会による民主的な統制の及ばないところで決定・執行されてきたことを白日の下にさらすことになった。そして、そのような事態を招くことになった背景のひとつには、原子力エネルギー政策を含む科学技術政策については――科学という知の特殊性を考慮するならば――ある程度専門家に任せるしかないという認識が広く共有されていたという事情があったように思われる。いわば、科学という知の特殊な位置づけが〈社会の中の科学〉に特権的な地位を与えていたといっても過言ではない。
 ハリー・コリンズとロバート・エヴァンズの「科学論の第三の波」論文(二〇〇二年)によれば、この〈社会の中の科学〉問題について、従来の科学論には二つの重要な「波」があった。第一の波は、科学という知を「非科学」と明確に峻別し、その基盤を一切疑うことなく、専門家としての科学者による合理的な科学技術政策の推進を提唱した一九五〇~六〇年代の「実証主義」である。これに対し、七〇年代になると、特に科学史研究において科学という知に「科学外要因」がもたらしてきた影響が明らかにされるに従って、科学を――他の様々な知と同じく――社会的に構築された活動と捉え、科学技術政策についても民主的な正統性を重視する「社会構築主義」という第二の波が現れた。以後、〈社会の中の科学〉問題について、この専門知としての合理性を強調する第一波(「実証主義」)と社会知としての正統性を強調する第二波(「社会構築主義」)の間での論争がいかに大きな影響力を持ったかということは、たとえば「三・一一」以降のわが国における原子力発電をめぐる論争からも明らかであろう。そしてコリンズらは、第二波が強調した「参加の拡大」――科学技術をめぐる意思決定への非専門家の参画――が、専門知としての科学の基盤を揺るがしかねないと考え、信頼できる専門知を確保するための規範理論(「専門知と経験の研究」)の必要性を説いているが、この第三の波もまた、われわれが既に目の当たりにした動向であるといえよう。
 だが、社会思想史を振り返るならば、コリンズらが現代の科学論に見いだした〈社会の中の科学〉をめぐるこうした複数の「波」は、多少の相違はあるにせよ、何度も繰り返し現れて来た動向であるように思われる。そこで本特集では、コリンズらの議論を踏まえつつも、科学史、科学哲学、科学技術社会論の最新の知見を踏まえながら、よりパースペクティヴを拡げ、社会思想としての科学の特質に迫りたい。
(小田川大典)



目次

■■ 特集:社会思想としての科学 ■■

歴史的事例から見る〈社会の中の科学〉
 〔十八・十九世紀の河川公共事業と科学の「理論」〕  隠岐さや香
思想史における技術  直江清隆
「専門知の民主化/民主政の専門化」モデルと3・11複合災害後の日本  平川秀幸


公募論文
カント歴史論における統治批判と自然概念
 〔ヒューム・スミスとの比較を通して〕  網谷壮介
カント哲学における言論の自由  金慧
マルクス「本源的所有」論の再検討〔「資本主義的生産に先行する諸形態」
 における「私的所有」と「個人的所有」の差異〕  隅田聡一郎
進化論的アプローチによるアラブの専制批判
 〔シブリー・シュマイイルの思想を中心に〕  岡崎弘樹
初期イギリス社会学と「社会的なもの」
 〔イギリス福祉国家思想史の一断面〕  寺尾範野
物象化としての合理化と解放としての美的経験
 〔ルカーチ初期美学論稿の展開と『歴史と階級意識』〕  秋元由裕
H・アーレントのアメリカ革命論と黒人差別の認識
 〔「始まり」の恣意性と暴力に関連させて〕  河合恭平
普遍性に根ざした政治文化の生成
 〔J・ハーバーマスにおける憲法パトリオティズム論の展開〕   田畑真一

書 評
『征服と自由――マキァヴェッリの政治思想と
 ルネサンス・フィレンツェ』(鹿子生浩輝著)  厚見恵一郎
『アダム・スミスの近代性の根源――市場はなぜ見出されたのか』(野原慎司著)  渡辺恵一
『チェーザレ・ベッカリーア研究
 ――『犯罪と刑罰』・『公共経済学』と啓蒙の実践』(黒須純一郎著)  小谷眞男
『近代ヨーロッパ宗教文化論
 ――姦通小説・ナポレオン法典・政教分離』(工藤庸子著)  髙山裕二
『グレアム・ウォーラスの思想世界――来たるべき共同体論の構想』(平石耕著)  姫野順一
『マックス・ウェーバーの日本――受容史の研究1905-1995』
 (W・シュヴェントカー著、野口雅弘・鈴木直・細井保・木村裕之訳)  廳茂
『中華民国の誕生と大正初期の日本人』(曽田三郎著)  武藤秀太郎
『崩壊の経験――現代ドイツ政治思想講義』(蔭山宏著)  川合全弘
『労働者――支配と形態』(エルンスト・ユンガー著、川合全弘訳)  大竹弘二
『かたちある生――アドルノと批判理論のビオ・グラフィー』(入谷秀一著)  麻生博之
『フーコーの闘争――〈統治する主体〉の誕生』(箱田徹著)  重田園江
『来たるべきデモクラシー――暴力と排除に抗して』(山崎望著)  高橋良輔


 第三回社会思想史学会研究奨励賞の公示
 二〇一三年会員新著一覧
 英文抄録/英文目次
 公募論文投稿規定/公募論文審査規定/執筆要領/社会思想史学会研究奨励賞規定
 編集後記

ページトップへ