においの歴史〈新装新版〉――嗅覚と社会的想像力

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  • アラン・コルバン 著
  • 山田登世子・鹿島茂 訳
  • 新版序=鹿島茂
  • A5並製 408頁・口絵12頁
    ISBN-13: 9784865784411
    刊行日: 2024/11

「嗅覚革命」を活写した名著、新装復刊!

悪臭を嫌悪し、芳香を愛でるという現代人に自明の感受性が、いつ、どこで誕生したのか? 18世紀西欧の歴史の中の「嗅覚革命」を辿り、公衆衛生学の誕生と悪臭退治の起源を浮彫る。
コルバンを読むなら、まずこの一冊。


目次

コルバン史学の出発点となった記念碑的書物 鹿島茂
日本語版によせて
新版へのはしがき(1990年)(訳者)

序――ジャン=ノエル・アレと悪臭追放の闘争史

Ⅰ 知覚革命、あるいは怪しい臭い
 第1章 空気と腐敗の脅威
 第2章 嗅覚的警戒心の主要な対象
 第3章 社会的発散物
 第4章 耐えがたさの再定義
 第5章 嗅覚的快楽の新たな計略

Ⅱ 公共空間の浄化
 第1章 悪臭追放の諸戦略
 第2章 さまざまな臭いと社会秩序の生理学
 第3章 政治と公害

Ⅲ におい、象徴、社会的表象
 第1章 貧民の悪臭
 第2章 「家にこもるにおい」
 第3章 私生活の香り
 第4章 陶酔と香水壜
 第5章 「汗くさい笑い」
 終章 「パリの悪臭」

むすび
訳者あとがき
原注

関連情報

今日の科学的「常識」が成立するまでの間、臭いをめぐって次々と登場してくる科学的言説の数々は、臭いをめぐる人びとの感性の変化をうかがわせる指標である。都市そのものがそっくり巨大な糞尿溜めといってもよかったパリが悪臭ふんぷんたる都であったことは、すでによく知られていることだが、この悪臭がはたしてそこに住む人びとにとって嫌悪の対象であったかどうかは、臭気の存在それ自体とはまた別の問題である。

それまで悪臭と仲良く暮らしていた人びとが、ある時期を境に、悪臭にたいして脅威を感じ、これを排斥しようとしはじめる。今まで意識の対象にのぼらなかった臭いがにわかに嫌悪感をかきたて、論議の的になり、科学的言説の対象になる。あるいは科学的言説が人びとの感性を先どりして生活の規範となるのである。

臭いは臭いとしてたえず存在し続けているのだが、ある感性の変容がこれを明瞭に意識化してはじめて「悪臭」なるものが存在するようになるのだ。近代はこの意味で悪臭を「発明」したのである。ここに、コルバンの研究がたんなる生活史をこえて、「社会的想像力」の領域に踏みこんだ野心作である所以がある。

芳香に快楽を感じ、悪臭を嫌悪する現代の私たちの感性は、歴史的に生成したある知覚の枠組みを前提にしている。無意識の領域に属しているこの知覚の枠組みの探求にとりくんだコルバンの研究は、はじめての本格的な知覚の歴史と評しても過言ではないだろう。
(「訳者あとがき」より)


〈コルバン史学の出発点となった記念碑的書物〉鹿島茂
コルバンが確立を目指したのは、アナール派史学が開拓した諸分野のうち「感性の歴史」ないしは「心性史」と呼ばれるジャンルである。すなわち、戦争などの偶発的な事件や王の性格などよりも、人間の心性や感性の長いスパンでの変化こそが歴史を動かす真の動因であるという立場から、そうした心性や感性の変化があらわれやすい資料を探しだし、これを批判的に検討することで史料として採用するという姿勢がコルバンのそれなのだが、「人間の心性や感性の長いスパンでの変化」を見るのに最適な資料といえば、だれが見てもフィクション以外にはない。しかし、フィクションは史料たりえないというのが歴史学の原則であった。この矛盾をどう乗りこえるか、これがコルバンが自らに課した最大の課題だった。『においの歴史』はコルバンにとってまさにこの課題にどう対処するかを試す試金石となった歴史書だった。
(「新装新版によせて」より)

著者紹介

●アラン・コルバン(Alain Corbin)
1936年フランス・オルヌ県生。カーン大学卒業後,歴史の教授資格取得(1959年)。リモージュのリセで教えた後,トゥールのフランソワ・ラブレー大学教授として現代史を担当(1972-86)。1987年よりパリ第1大学(パンテオン=ソルボンヌ)教授として,モーリス・アギュロンの跡を継いで19世紀史の講座を担当。現在は同大学名誉教授。
“感性の歴史家”としてフランスのみならず西欧世界の中で知られており,近年は『身体の歴史』(全3巻,2005年,邦訳2010年)『男らしさの歴史』(全3巻,2011年,邦訳2016-17年)『感情の歴史』(全3巻,2016-17年,邦訳2020-22年)の3大シリーズ企画の監修者も務め,多くの後続世代の歴史学者たちをまとめる存在としても活躍している。
著書:
 『娼婦』(1978年,邦訳1991年・新版2010年)
 『浜辺の誕生』(1988年,邦訳1992年)
 『音の風景』(1994年,邦訳1997年)
 『レジャーの誕生』(1995年,邦訳2000年・新版2010年)
 『記録を残さなかった男の歴史』(1998年,邦訳1999年)
 『快楽の歴史』(2008年,邦訳2011年)
 『知識欲の誕生』(2011年,邦訳2014年)
 『処女崇拝の系譜』(2014年,邦訳2018年)
 『草のみずみずしさ』(2018年,邦訳2021年)
 『雨,太陽,風』(2013年,邦訳2022年)
 『木陰の歴史』(2013年,邦訳2022年)
 『未知なる地球』(2020年,邦訳2023年)
 『1930年代の只中で』(2019年,邦訳2023年)
 『疾風とそよ風』(2021年,邦訳2024年)
 『休息の歴史』(2022年,邦訳2024年) ほか(邦訳はいずれも藤原書店)

【訳者紹介】
●山田登世子(やまだ・とよこ)
1946-2016年。福岡県田川市出身。フランス文学者。愛知淑徳大学名誉教授。
主な著書に,『モードの帝国』(ちくま学芸文庫),『娼婦』(日本文芸社),『声の銀河系』(河出書房新社),『リゾート世紀末』(筑摩書房,台湾版『水的記憶之旅』),『晶子とシャネル』(勁草書房),『ブランドの条件』(岩波書店,韓国版『Made in ブランド』),『贅沢の条件』(岩波書店),『誰も知らない印象派』(左右社),『「フランスかぶれ」の誕生』『モードの誘惑』『都市のエクスタシー』『メディア都市パリ』『女とフィクション』『書物のエスプリ』(藤原書店)など多数。
主な訳書に,バルザック『風俗のパトロジー』『従妹ベット』上下巻(藤原書店),アラン・コルバン『処女崇拝の系譜』(共訳,藤原書店),ポール・モラン『シャネル――人生を語る』(中央公論新社),モーパッサン『モーパッサン短編集』(ちくま文庫),ロラン・バルト『ロラン・バルト モード論集』(ちくま学芸文庫)など多数。

●鹿島茂(かしま・しげる)
1949年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。19世紀フランス文学・社会。明治大学名誉教授。
主な著書に,『馬車が買いたい!』(白水社,サントリー学芸賞),『子供より古書が大事と思いたい』(講談社エッセイ賞)『書評家人生』(以上,青土社),『愛書狂』(角川春樹事務所),『職業別パリ風俗』(白水社,読売文学賞),『バルザックがおもしろい』(共著)『バルザックを読む・対談篇』(共著,以上,藤原書店),『パリの日本人』『パリのパサージュ』(中公文庫),『渋沢栄一』(文春文庫),『新聞王ジラルダン』『神田神保町書肆街考』(ちくま文庫),『デパートの誕生』『パリ万国博覧会』(講談社学術文庫),『稀書探訪』『思考の技術論』(平凡社),『パリの本屋さん』(中央公論新社)など多数。
主な訳書に,バルザック『ペール・ゴリオ』(藤原書店)『役人の生理学』『ジャーナリズムの生理学』(講談社学術文庫),パスカル『パンセ抄』(飛鳥新社)など多数。

*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです

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